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2011/01/05

武勲の史家

第九章
 巨人ならぬ風車との戦いで散々な目にあったドン・キホーテとサンチョは、気を取り直して、今度はプエルト・ラピセに向かう道を辿って行った。そこは往来が多く、新たな冒険に出会えると思ったからである。すると、はたして向こうから二人のサン・ベニート会の修道士とその後ろには、ラバを引いている二人の徒歩の者と騎乗の者四、五人に伴われた馬車がやって来た。彼らがみな黒装束に身を固めていたため、ドン・キホーテはその一行が、誘拐してきたどこかの姫君を馬車で連れ去らんとする妖術師たちに違いないと思った。そこで、ここは姫君を救わんと、道の中央に出て馬にまたがったまま大音声で叫んだ、「やあやあ、悪魔に憑かれた異形の化け物ども、汝らがその馬車に閉じこめて、無理無体に連れ去らんとしておるやんごとなき姫君を、今すぐ自由にしてさしあげろ。さもなくば、汝が悪事の当然の報いとして、すぐにも死を覚悟いたすがよい」。かくして、遍歴の騎士ドン・キホーテと馬車の従者の一人である気性の荒いビスカヤ人の壮絶なる一騎打ちが繰り広げられようとしていた。
 しかし、ここに来て困ったことに、この物語の原作者が、資料が見あたらないという理由で物語を中断してしまったと編集者のセルバンテスは記している。これには、さすがの彼もなすすべがなかったが、それでも彼は、あきらめなかった。というのも、ドン・キホーテほどの名高い騎士の行状や武勲の数々を、その冒険に随伴し、詳細に記録するような歴史家一人もいないなどということは、ほとんど考えられないことだからであり、果たして彼は、とある市場で、ふとしたことから、原作の続きが一人の貧しい少年の手にあった粗末なノートに記されていたのを見つけ、彼からそれを二束三文で買い取り、編集に取り入れることができたのであった。
 いま私たちが手にしている聖書もそのようにしてできたのだろう。それには、元々定まった著者や編集者などなく、言い伝えられてきたことが一つにまとめられたものである。つまり、できごとを記録する人が重要なのではなく、それらのできごとを成した当の人が重要なのである。しかし信仰者は、その編集の過程に聖霊の導きがあったことを認める。そして、すべてが神のご計画のために効果的にはたらき、そのようにして、すべてが神の栄光となるのである。
 ところで、見つかった原作の続きによると、ドン・キホーテとかのビスカガ人の一騎打ちは、壮絶な切り合いの末、みごとドン・キホーテが勝利を治め、姫君を魔物から救い出したということである。

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