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2010/12/23

二度目の旅立ち

第七章
 ドン・キホーテが寝込んでいる間に、書斎にあった忌々しい騎士物語をすべて処分してしまった司祭と床屋の主人および姪と女中は、ドン・キホーテが眠りから醒める前に、それらの隠ぺい工作を行った。すなわち、書斎の入り口を壁のように塗り固め、魔法使いがやって来て、書斎もろとも騎士物語を全部盗んで行ったということにしたのであった。
 ドン・キホーテは、約3日間寝たままであったが、その後寝床から起きあがると自分の書斎のあったはずのところへ行き、入り口を探したが見あたらないので、女中を問い正した。女中が上述のように答えると、彼は、自分の敵に対する憎悪を露にして言った、「フレストンという奴であろう。だが、わしはこの際はっきり奴に言い渡しておこう。いくら賢明な魔法使いであっても、天が定めたところを避けることもできなければ、それに逆らうこともできはしないとな」。
 人は、一人では生きて行けない。人は、常に何かに依存して生きているものである。そして当然、その依存している当のものの影響を受けるし、また彼の行動も左右される。そのようにして生きているものだから、その当のものが揺らぐとき、彼の人生もまた揺らぐのである。しかし、だからと言って、彼が何か、より強力なものに依存すればするほど、安定感は増すかも知れないが、その一方で、制圧感もまた増すのであり、今度はそれが彼を苦しめることとなりかねないのである。
 しかしドン・キホーテは、ただ天にのみ依存していたのであった。そしてそれは、何か他のものに依存することで、彼自身が不自由になるというようなものではなく、返って彼を自由にするものであった。彼は、彼自身の信じるところを束縛なく生きる。そして、それがまさに天の定めるところなのである。それは、彼が良い意思を持ち、天の意思に心から、無条件に従うからである。
 ところで、大切にしていた騎士物語が盗まれたと聞き、激怒したドン・キホーテであったが、やがて何事もなかったように気を取り直したようだったので、姪と女中はひと安心した。しかし実のところ、彼は、粛々と再出発の準備に取りかかっていたのであった。
 まず始めに、散々に破壊されてしまった鎧兜を修理した。そして次に、目をつけておいた、近くに住む農夫に、遍歴の騎士の従士となって、冒険旅行に行かないか、という話を持ちかけたのであった。すると、妻子持ちであったにも関わらず、なんとその農夫が、ドン・キホーテの誘いに乗ってきたのだった。
 住み慣れた家を離れ、身の安全の保証など何もなく、いつとも分からない夢の成就を期待して、あちこち歩き回る、そのような立場に人を駆り立てるものは、いったい何であろうか。それは、ドン・キホーテが彼に語った夢と希望であった。そして、自分にその夢の実現をもたらしてくれるものは、ドン・キホーテその人であり、彼は、この人を信じたのであった。かつて、弟子たちが、「ごらんください、私たちは、すべてを捨てて、あなたに従ってまいりました。つきましては、何がいただけるのでしょうか」とキリストに語ったとき、キリストは答えられた。「はっきり言っておく。新しい世界になり、人の子が栄光の座に座るとき、あなたがたも、わたしに従って来たのだから、十二の座に座ってイスラエルの十二部族を治めることになる」と。サンチョは、ドン・キホーテに言った、「おいらのためになること、おいらの力でできることなら、なんでも与えて下さるっちゅう、お前様のような偉い御主人に仕えているんだからね」。

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