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2010/12/04

最初の旅立ち

第二章
 勇んで自分の町を後にしたが、最初の一日目は、これといった冒険には巡り遭わずに日が暮れかかった。ドン・キホーテと名馬ロシナンテは、落胆の内にその日の宿を探すこととなった。そして、行く手にそれらしきものを認めたとき、彼の勇気は奮いたった。それが尖塔のそびえる重厚な城に見えたのである。すると、その戸口に立っていた二人の若い娼婦たちは、城門の前で憩っている美しい姫君または貴婦人と写り、またそのときちょうど鳴り響いた豚飼いの角笛は、さながら気高き騎士である自分の到着を城内にふれるトランペットの合図に聞こえたのであった。そして、その夜は、その城、いや小汚い宿屋において、彼の騎士としての一つのエピソードが展開するのである。
 彼はその夜、彼を迎えた者たちに自分の素姓と志しを明かした。それが彼らの心を動かしたのかどうか、たぶんそんなことはなかったと思われるが、とにかく彼は宿から追い出されることもなく、夕食にありついた。そして、たぶん彼の馬も飼葉と水にありついたことだろう。
 人は時々、社会において独り相撲を取っていることがある。彼の接している人が、何か自分を高めてくれるか、あるいは出世させてくれる力を持っているように思えて、そのように見える相手に対応して、自分も一つの役柄を演じているというようなことがある。そのようなことは、後から思い返すと、なんと不甲斐ない、人に媚びへつらうというか、浮世や自分の人生に負け従うようなことだったことかと恥ずかしくなることもある。しかしそれは、同じ独り相撲でも、ドン・キホーテのような独り相撲には到底かなわない。彼の志の高さ、気高さ、その意思の強さにおいて。これと比べうるものが、私たちが生きている今日の社会の中に、果たして見いだせるだろうか。

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