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2010/12/03

名高きラ・マンチャの郷士

第一章
 人は、ときに日常生活に飽き足らず、冒険に憧れ、見果てぬ夢に胸を膨らませることがある。しかし、我々のような凡人の手合いが為せるのは、通常そこまでであり、そのような思いつきの冒険に身を投じようなどとは毛頭思わないものである。しかし、かの名もないラ・マンチャの郷士は違っていた。彼の名は、キハーダと言ったが、昼も夜も夢中で騎士物語を読みふけり、ついにそれが彼にとって現実のこととなってしまった。そして、ついに曾祖父の形見の古い甲冑に身を固め、飼っていたやせ馬にまたがって、この世の悪と戦い、名声、勝利、功績を得ようと家を飛び出した。そしてこの後彼は、危険も顧みず、数々の無謀な企てを繰り返すことになる。
 彼は、自分のやせ馬にロシナンテという気高い名をつけ、同じ村の田舎娘にドロシネーア・デル・ドボーソという愛しい名を付けた。また、自分の名前をドン・キホーテ・デ・ラマンチャと改名した。もう彼は、以前の彼ではなく、彼の見るもの、会う人も以前のそれではない。彼は、自分の目標へ到達するために、自分とこの世界を完全に変革したのであった。
 人間にとって、真実とは何だろうか。人は、常に何かに騙されていないかと用心する。しかし、その確かめ方と言えば、例えば、他の人もやっているだろうかとか、過去にそのような事例があっただろうかとか、その類のことなのである。しかし、それでは、何のために生まれてきたのか分からない。神は、彼をたった一人のすばらしい存在にお造りになったのだから。彼は、自分に与えられたすばらしい人生を、彼としての最高の生き方で生きるべきではないのだろうか。そして、かつて、そのような生き方をした者がいたとするならば、その者こそ、かの名高き騎士ドン・キホーテ・デ・ラマンチャに他ならないのである。

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