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2010/10/25

啓示の認識

 ここでボンヘッファーは、啓示を行為概念で解釈しようとしているのである。その目的は、啓示を与える神の主権を正しく認識し、それによって、自分自身の立場を認識し、正しい信仰に到達するためである。というのも、神は本来、人間の自由にはならないし、その行為もまったく予測できないからである。そこで、人が神から何か祝福を受けたとしても、それは完全に神の自由な行為なのであり、まして人間の行いに対する褒美などではない。もっとも神は正直で忠実なお方だから、人間の良い行いに報いてくださるのだが、あえてそれをなさらない自由も持っておられる。そして、実際にそうされないこともある。人間は、どのようにしても、強いて神に何かを行わせることは不可能なのである。そして、行為は文字通り自由な行為なのであり、知識ではない。そこで、一つの行為から次の行為が必ずもたらされるという保証などないのである。それゆえ、啓示を行為概念で解釈するとは、啓示から知識を蓄積することはできないということを意味する。それは、人がただ従うための神からの指示なのであり、知識を与えるためのものではない。これがボンヘッファーがここで強調していることなのであり、それは神の前に人間を非常に遜らせるものである。
 「しかし・・・」とボンヘッファーは、続けて語る。それは、「啓示の認識」についてである。これまでに人間に与えられたもっとも重要な啓示、それは「キリストの福音」である。それを行為として解釈すべきなのかどうか。「もしわれわれが真に啓示について語ろうとするならば、それはともかく人間に対して明白で、人間にとって認識されたものとならねばならない。そして実際に、神の啓示は、キリストにおいてともかく知られるものとなっている。これはどのように理解されるべきであろうか」と彼は自らに問いかける。しかし、その後で彼は、驚くべき見解を述べる。「このことは、神が啓示認識の主体でもあるということによってのみ可能なのである」と。つまり、神が人の内に住んでおられるゆえに、キリストによって、それが実現したゆえに、神が私たちの内におられて、啓示を解釈し、理解させてくださるというのである。これが、真理の御霊の働きであり、この神主体の認識が「信仰」と呼ばれる。「聖霊は、私の信仰において自らを証しする」と彼は言う。「私の神認識は、神が私をキリストにおいて知っておられるか、神が私の中にキリストへの信仰をもたらしておられるかにいつもかかっている。それゆえに、神認識のためのいかなる方法もない。信仰は、真に実存的なのであり、啓示と出会った状況において実存的なのである」と。
 これらのことを通してボンヘッファーが主張してやまないことは、人間は独力で神を知ることは不可能であるということである。「神は、対象的存在という意味においては存在しない」と彼は言う。もし人が、神を知っていると主張することがあるならば、彼は、まだ知らなければならないことすら知っていないのである。神が存在するのは、個人の信仰の中だけである。「神は、信仰の行為における人間において自らを理解しつつ存在する。神は、人間実存の自己理解において、すなわち、啓示において存在する」と彼は語る。
 以上のことでボンヘッファーが目指しているのは、信仰という概念の先鋭化であろう。彼は、信仰と宗教をはっきりと区別する。宗教とは、神的なことがらに関する知識体系である。それは、啓示によって提示されたことがらの集大成かもしれない。しかし、ボンヘッファーによれば、宗教それ自体は、もはや啓示ではなく、神についての知識でもない。人は、神に関する知識を体系化することはできない。啓示は、常に実存的なものであり、個々の状況において、そのつど与えられるものなのである。それでは、福音とはなにか。それは、啓示によって与えられた神的な知識の体系であるが、それ自体が神についての知識ではない。それは、神を知る啓示を受けるための方法に関する知識なのである。だから、たとえ人が福音の内容を理解したとしても、それで神を知ったことにはならない。神を知るには、彼自身が神と関係を持ち、神から直接に啓示をいただかなければならないのである。だから、もし、キリスト教が分からないとか、聖書を信じられないという人がいれば、その人は、たぶん知識としてそれを得ようとしているからなのだ。必要なことは、むしろ、神との一対一の真剣な交わりを通して、生きた神を直接的に体験することなのである。それに福音や聖書に関する知識は少しは役立つかもしれないが、最後には自分と神の間の問題なのであり、自分のこれまで得た知識や人生観等々をすべて捨てて、それらを代償に神を得るという願いが必要なのである。

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