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2007/06/14

矛盾

サムエル記下 第4章

 アブネルが殺されたことを聞いたイシュ・ボシェテと全イスラエルは、非常に恐れた。そしてある日、イシュ・ボシェテは、二人の略奪隊の長により、暗殺されてしまった。彼の首は、その二人によりダビデのところに届けられた。彼らは、サウルのいないイスラエルが長く続かないことを思い、抜け駆けしてダビデに取り入ったのであった。彼らの話を聞いたダビデの心に聖なる怒りがみなぎった。ダビデは、かつて死に瀕したサウルのとどめを刺した若者を殺したように、彼ら二人を殺した。
 ダビデはこのとき、自分の宿命を思ったことだろう。自分が神に油注がれたイスラエルの王である限り、自分の手から血が渇くことはないと。その血は、アダムが犯した罪の報いであり、カインが流した血と同じものだ。それ以後、気の遠くなるような歴史を通じて、おびただしい血が地の上に流されてきた。ダビデがこれまでに流してきた敵の血、そして同胞イスラエル人の血、さらに今殺した二人の若者の血。それらを神が油注がれた王ダビデが流したのだ。この大いなる矛盾、ダビデが神の裁き司である限り、悪者に血で報いることは避けられない。しかし、ダビデは何事かに気付き始めていた。自分がこのまま血を流し続けるならば、その結果自分の心はすさみ、神から離れていかねばならないということを。彼にとって、神に従うことは、血を流すことであり、そして、それはそのまま、神から離れて行くことなのであった。ああ、なんということだろう。彼が神に忠実になればなるほど、彼は神から離れて行ってしまうことになるとは。神は、人間に良心を与えられた。そして、その良心、すなわち「善悪を知る心」が、人を神から離れされる結果になったのだ。ダビデは、この苦悩を詩篇につづった。彼は、神に願った、「私は自分で復讐したくありません。どうかあなたが私の敵に復讐してくださいますように」と。

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迷い

サムエル記下 第3章

 サウル王家とダビデ王家の戦いが続くうちに、サウル王家ではアブネルが次第に実権を握るようになっていった。そして同じように、ダビデ王家でも軍指令官のヨアブが実権を握ろうとしていた。そこで両家の対立は、本質的にこの二人の対立となって行くかのようにも思われた。しかしイシュボシェトとダビデの間には、明確な違いがあった。と言うのはイシュボシェトはサウルの息子であったが、ダビデは神が油を注がれたイスラエルの王であったからである。
 アブネルは、サウル王の側女と通じていた。そのことをイシュボシェトが非難すると、アブネルは、激しく怒って、イシュボシェトに反発した。そして彼の心は、このことを境にイシュボシェトから離れて、ダビデに向かった。アブネルはダビデの元へ使者を送って言わせた。「わたしと契約を結べば、あなたの味方となって全イスラエルがあなたにつくように計らいましょう。」彼は、自分がやがてダビデとの戦いに敗れるであろうことを察していたのである。それは、彼がダビデに注がれた神からの油を見ていたからである。アブネルはかつて、サウル家の王権を守ろうとしてイシュボシェトを擁立したが、自分の王とダビデとの違いを感じることができたのであろう。そのような意味で、アブネルには弱さもあったが、彼の心には、神を信じる純粋な部分があったのだった。
 アブネルからの講和申し出を受けたダビデは、それを受け入れ、アブネルを自分の元に招き、丁重に応対した。ダビデはこのとき、アブネルが自分と同じ神への信仰を持っていることを感じたのだろう。神への信仰の前には、過去や現在におけるどのような状況や策略も問題にならない。それは、見えない世界で行われている高度な会話であり、この世を愛する人には、その意味が分からないのだ。
 アブネルがダビデの元から平和のうちに送り出された後、ダビデの軍の指揮官ヨアブが多くの戦利品を携えて略奪から帰ってきた。彼は、ダビデがアブネルにしたことを聞いて、ダビデに抗議した。そして、ダビデの元を引き下がると、アブネルを呼び戻した上、彼を暗殺してしまった。ダビデはそれを聞いてアブネルの死を悼み、ヨアブの行ったことを嘆いて家臣たちに言った、「今日、イスラエルの偉大な将軍が倒れたということをお前たちは悟らねばならない。わたしは油を注がれた王であるとはいえ、今は無力である。あの者ども、ツェルヤの息子たちはわたしの手に余る。悪をなす者には主御自身がその悪に報いられるように。」今のダビデにとっては、ヨアブが持ち帰った勝利と戦利品は、色あせて、何の価値もないかのように思われた。
 ダビデは、「強さとは、いったい何だろう」と考えていたのだ。彼は、ゴリアテを倒し、ペリシテ人との戦いで常に勝利を得た。彼よりも強い者は、この地上にいなかった。しかし彼は、敵を倒すことは、本当の強さではないと思った。彼は、アマレク人との戦いの中で、自分の家族や民を略奪されるという不幸を味わった。それにより、敵との戦いにおける勝利がもたらす悲劇を味わい、自分の得てきた勝利と誉れのむなしいことを悟ったのだろう。後に彼は、まさにそのことにより、神の住まわれる神殿を造ることを断念し、その偉業を自分の子ソロモンに譲ることになる。彼は、このときから、自らはあまり戦場に出て行かなくなったのだろう。そして、一人宮廷に残り、物思いにふけることになる。そして、そのような中で、あのバテシバの事件が起こってしまうことになるのだろう。

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